■作品内容
詩情あふれる光の空気、至福のひととき
パリを拠点に活躍する写真家が、心惹かれるパリのカフェを撮り
続けた十数年の集大成。カフェにまつわるエッセイも織り込む。
画一的なカフェが世界中に広がる中、本当のカフェの魅力を余す
ところなく伝える。
【著者紹介】
1957年東京都生まれ。早稲田大学卒業。写真家・後勝彦
に師事。
1987年に渡仏。現在、パリを拠点に活動している。
【書評から】
写真家のせつないため息がきこえてきそうだ。
パリのカフェの写真集である。渋谷にも出店のある有名なドゥ・マゴをはじめ、
二十六店。それらを繊細な気遣いをのこすモノクロームでとらえた。
どこをとっても、人間の世界だ。空の籐椅子が並ぶ無人のテラスであれ、たむろ
する人間のいとなみの気配が、濃密にこもっている。こみあった店内で、ひとり
居場所をみつけて腰をおろすときの安堵や、孤独に似た愉しみまでも。
(中略)
ほとんどが晩秋から冬の光景で占められている。白黒の光が微妙に綾なす季節だ。
これも写真家の抱くせつなさが選ばせた。秋の日のビオロンのひたぶるにうらが
なし……ドゥ・マゴの常連だったベルレーヌの詩の一節が、ひょいと思い浮かん
だ。(「週刊ポスト」2001.7.6・倉本四郎の視的快楽)
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本書は、カフェをテーマに、パリの街角とそこに暮らす人々をとらえた写真集で
ある。一人うつむいてスプーンを回す、ほおづえをついて物思いにふける、さり
げない会話を楽しむ…。そこがパリであろうと無名の街であろうと、地に足を着
けて生きていればだれもが抱える憂いやしんどさを、隣のいすにかばんを置くよ
うに、しばし肩から下ろす場所として、カフェは存在しているように見える。
日本でも、パリ風のオープンカフェが増えてにぎわっている。形から入ることが
すなわち悪いわけではないが、本書をめくると、「社交」というものが長い歴史
を持つパリと日本とでは、生活へのカフェの溶け込み具合が違うものだな、と
感じるのである。
(時事通信社配信2001.6.29)
◆
今、日本はカフェブーム。雑誌に載ってた青山あたりのオシャレな店で歩道に張り
出した小さなテーブルにひじをつき、カプチーノを飲む。気分はもうパリジェンヌ。
そう、カフェと言えばもともとパリ。シャンゼリゼでもオペラ座界隈でも、街を
歩けば至るところにカフェがあり、その数は一万ともいわれる。本書はそこに集う
人々の日常を集めた写真集。
物思いにふける女性。微笑みあうカップル。のんびり時間を過ごすおばあさんたち。
パリのカフェは、自分の時間を取り戻す空間であり、人々の生活に根づいている。
本場のスタイルを疑似体験するだけの日本のカフェとは、どこか違う。
(共同通信社配信2001.7.15)
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