■作品内容
21世紀、南極大陸は未知の大陸・科学の大陸の時代を経て、観光の大陸へと
大きく変わろうとしている。南極行十数回の著者が、次世代の子供たちのために、
南極体験の意義とそのルール作りを提言する、わが国初の南極観光読本。
【著者紹介】
1937年神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。
国立極地研究所・総合研究大学院大学教授。
著書に「南極情報101」「南極の現場から」「開けゆく大陸・南極」など。
【書評より】
科学者が案内する極地観光
(前半略)
著者の専門は地震学・火山学で、南極行きは、昭和基地での越冬を含め十数回。
まさに南極観測研究の草分け的な存在で、この分野におけるわが国を代表する
科学者の一人である。アメリカ科学財団は、筆者の業績をたたえてドライバレー
のニューオール氷河の中に突き出た岩峰を「カミヌマクラップ」と命名した。
一般に、科学者の書いた本は読みづらいと思われがちだが、著者の意図が
「一人でも多くの子供たちに南極を知ってほしい」という点にあり、充実した内容
をよくかみ砕いて書いてあるので実に読みやすい。
南極といえば、雪と氷に覆われた人間を寄せ付けなぬ荒涼とした世界を思い浮か
べるが、どうやらそれは大間違いのようだ。南極観光名所のナンバー1、サウス
シェトランド諸島から南極半島にかけての一帯は、目を射抜くばかりの氷河の白と
藍、海岸の砂浜、アザラシのハーレム、ペンギンのルッカリー(営巣地)、活火山の
デセプション島からは湯煙も上がる。
観光客を歓迎してくれる基地も少なくない。そこでは観光客向けの売店があり、
南極に行って北半球に位置するそれぞれの国の特産品を買うことができるという。
地球も狭くなったものだ。南極は百年かそこらの間に、狩猟船・捕鯨船がばっこする
時代、アムンゼン、スコット、白瀬らの冒険・探険の時代から科学調査観測の時代を
経て、今や観光の時代を迎えた。(以下略)
(溝上恵・「信濃毎日新聞」2001.4.29)
◆
国際公園構想 積極的に
(前半略)
著者が注目するのは、南極を国際公園として一般開放する「国際公園」構想。
観光の受入れ地域と来訪者数を決め、事故と環境破壊の抑制を図る。
「具体的な受け入れ態勢や救援ルールをつくることが難しく、残念ながら構想は
進んでいません。大勢の日本人観光客が訪れているのだから、日本政府は積極的
に観光対策に取り組むべきです」と注文する。
受け入れ態勢が整った後、日本の若者たちに南極を訪れてもらいたいと願っている。
「南極のすばらしさを感じ取り、この大切な環境を守りたいという気持ちを抱いて
ほしいのです」
(「北海道新聞 ほん・訪問」2001.4.22)
◆
昭和基地での2回の越冬をはじめ、10回を超える南極行きのベテランである
元国立極地研究所教授が、南極観光に役立つ情報を集めた。地球物理学の研
究者として南極を愛し、南極観光に反対してきた著者が、この本をまとめた
のには訳がある。現実に旅行者が絶えない以上、南極についての正しい知識
を身につけ、心の底から南極の自然環境を大切に感じる”教養人”になって
から訪れてもらおうというのが趣旨だ。南極の姿や調査の歴史、観光名所の
ほか、研究者の生活なども紹介している。実体験に基づくだけに、自然を知
る筆致は生き生きして素晴らしい。
(読売新聞2001.4.12)
◆
南極の”一般解放”提言
南極での活動は現在、南極条約で科学観測に限られている。だが、一九九九年
度の夏季には約一万五千人と過去最多の観光客が訪れ、一部の観測基地には
ホテルがあるのが実情だ。
(中略)
そこで神沼教授は、@事故に備えた捜索、救援体制を整えるA自然環境への
負荷を抑えるため観光客に開放する地域を限定し、人数にも上限を設ける、
などのルールづくりを急ぐよう主張。「南極は人類共通の財産で、青少年の
教育の場としても有効」ばどと門戸の開放を訴えている。
観光スポットとしては、南極点のほか、ホテルや郵便局もある南極半島周辺、
英国探検家スコットの越冬小屋などの史跡の多いロス海周辺をピックアップ。
(以下略) (共同通信社配信2001.3.28)
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